ポイントカード

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  リラクゼーション業界におけるポイントカードに焦点をあてて探ってみました。

ポイントカードへの意見

 私のサロンで使われていたポイントカードが何気なく話題になった時のことです。その場にいた3名ほどのセラピストは皆、次々に自分の意見を述べました。

「もっと割引してあげても良いと思います」
「そうだよね。貯めるのは大変なのに、見返りはたった500円だもの」
「1枚のカードを貯めるのに、お客様は幾ら使われるかご存知ですか?」

 あらかじめお店で決められていることは当たり前の様に受け入れてしまいがちです。あるいは日常に埋没してしまうと、普段行なっていることへの疑問をあまり感じなくなってしまうものです。

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 しかし、彼らは違っていました。
 ポイントカードに対する見解を次々と口にするのに私は驚きました。それはお客様に対する配慮意識をきちんと持ち得ていることの表れです。一方で、疑問に感じながらも会社への配慮もあって普段は意見を控えていたのだと感じました。

 おそらくは、それまで当店のポイントカードに一番疑問を持ち得なかったのは、店責者である私自身だったに違いありません。
 読者の皆様はどのようなポイントカードをお使いでしょうか。
 今回のもみAはWatch第2弾として、リラクゼーション業におけるポイントカードへの考察を取り上げます。

1枚のカードを満タンにするには

 当店が使っていたポイントカードは1枚で30ポイントを貯めるものでした。お客様には、施術30分につき1ポイントをご提供します。満タンの30ポイントが貯まると500円の割引クーポンとして利用できました。

【ポイントシステム】
・カード1枚で30ポイントを貯める
・満タンになると500円の割引
・施術30分につき1ポイントの配布

 はたしてこのカードで、お客様は幾ら使えばポイントを満タンにできるのでしょうか。

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 ポイントが満タンになるために必要な施術時間は30分×30ポイントで900分、ちょうど15時間です。当店でもっとも人気の高いニューは「60分全身もみほぐし」です。

 仮にそのメニューで1枚のカードを満タンにしたと仮定すると、3,200円(当サロンでの当時の料金)×15(時間)=48,000円になります。カードを満タンにするには48,000円かかることになります。

しょぼいカード

 60分全身もみほぐしであったとしても、お客様に48,000円ご利用していただいて500円の割引になる。この事実が判ると多くの人々が、何としょぼいポイントカードなのだろうという印象を抱くはずです。  しょぼいとは「冴えない」「貧相である」「ぱっとしない」という意味です。  当店のこのポイントカードは、低料金で全国展開する業界大手チェーンのスタイルを模倣したものでした。そればかりではなく、設定料金の似た中小の低料金サロンの多くが同様に定めていたスタイルなのです。

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 何万円も利用しているのにわずか500円の割引なのか、もっとサービスしてくれたっていいじゃないか。お客様からのそんな声が聞こえてきそうです。ご利用額に対するポイント還元率はわずか1.04%に過ぎません。

 当店でも同じ声が何度か上がりました。お客様からではありません。セラピストからです。私も同感で、その時にはカードシステムを改変しようと考えたほどです。  しかし、それを思いとどまらせたのは費用負担への圧迫と共に、当ブログでも何度か紹介している「身体代償」という考え方でした。

業界をめぐる変化

 この数年で同業者が増え、もみほぐしサロン間でのお客様の取り合いも激しくなりました。既存店がやっていることもあり、新規のお店も必ずといってポイントカードを始められます。当店のしょぼいカードとは異なった変化が生じてきたのです。
 施術10分当たりの料金単価が900円~1,000円の高級サロンでは還元率が格段に良いスタイルが登場し、700円~800円クラスの中堅サロンでも還元率を上げ、もしくは還元率はそのままでも、ポイントが早く貯まるカードシステムがアピールされ始めました。

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 そんな変化にも関わらず、当店は頑なにポイント1倍のスタイルを通しました。還元率が低いことに加え、とてもポイントが貯まりにくいカードです。しかし、その同じカードを3枚、4枚と普通に重ねられ、5枚を越えて6~7枚に至る方も多く、すでに10枚以上に達している方も少なくありません。ありがたいことに、貯めるのがとても大変なカードをそれだけ重ねていたたげるお客様によって当店は支えられてきたのです。
 ここでも、暇な曜日や午前中などはせめてポイントを2倍にしたらどうか、という声がセラピストから上がりました。私は首を縦には振りませんでした。 やはり「身体代償」という考えがあったからです。

ポイントサービスに馴染まない業種

 「身体代償」とは、分かりやすく言えば、セラピストが見返りとなりお客様の身体を楽にしているという考え方です。セラピストの指や手、肘などがお客様の身体と直接触れることから、一般の肉体労働とはかなり異なった特殊性があります。身体代償はもみほぐしマッサージなどお客様をオールハンドで施術する仕事特有の考え方です。
 仮に48,000円をご利用いただいたとしても、それはセラピストが自分の身体を代償とし、メニュー60分×15時間にわたってお客様の身体と向き合った経緯に他なりません。

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 たとえば日用雑貨、菓子食品、書籍、衣服、嗜好品、レンタルなど一般の商製品は、お客様の購買量が増えるほどメリットが得られ、人的な負担をあまりかけずに利益を増やせます。クリーニングや飲食など一般のサービス業も、小売業、製造業ほどではありませんが、同じようにお客様のご利用が多いほど利益を得るための人的労力は軽減されます。

 もみほぐしサロンなどのリラクゼーション業では違います。お客様のご利用には、それに際して、必ず1対1でセラピストの人的な労力が費やされます。ご利用が多いからといって、その労力が軽減されることはありません。むしろ人的労力こそが「施術サービス」という商品に該当していると考えられます。
 このことから私たちの施術は元来、ポイントサービスに馴染まない仕事であることが分かります。

メイン価値という捉え方

 どこで買っても商品の価値や値段に大きな差が無いとすると、よりポイントの高いお店の方にお客様は足を運ぶかも知れません。もみほぐしサロンではどうでしょうか。ポイントサービスはあくまでも付加価値に過ぎず、メインが何かと問えば施術サービスの質です。還元率が低く、しかも貯まりにくい当店のポイントカードを何枚も貯められる固定客や常連客のお客様が多いのは、あくまでもメイン価値を評価して頂いているからだと考えられます。

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 1枚のポイントカードを貯めた500円割引という見返りは 本当にオマケ程度でしかありません。お客様がメインの価値に満足をしてくだされば、付加的な見返りにはあまりこだわらないと思われます。
 セラピストの施術は技術であり技能です。どこで買っても価値や値段に大きな違いがない商品や製品などとは異なり、それが大きなウェートを占めていることに留意しなくてはなりません。

付加価値の浸透

 多くの業種でポイントカードが取り扱われることにより、本来は付加価値であったはずのポイントがいつの間にか浸透し、一般価値と認識されるようになってきました。集客と競争という目的がそこに関わっています。
 私にとって意外だったのは、業界大手の全国チェーン店までもがポイント10倍サービスを始めたことです。一時、小売業のディスカウントストアなどが盛んにテレビCMを流していたことの影響もあったようです。

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 医薬品や化粧品など利益率の高い業種でのポイント10倍デーなら分かりますが、もみほぐしサロンでは考えられません。低料金サロンなら尚更です。本業種の強みや特性を当然理解しているはずの大手チェーンがそうしたことで、私もいよいよポイントカードの改変に取り組む決意を固めました。
「セラピストの皆さんの意向にようやく応えることができる」
 最初に改変を意識した時から3年以上が経っていました。私にとって身体代償やメイン価値は、自店のカードシステムの改変をその都度思いとどまらせる大きな理由でした。その考え方や捉え方は新しいカードに活かされなくてはなりません。

来店回数への注目

「セラピストの皆さんから反対されるかも知れない」
 ポイントの対象を従来までと大きく変えたことから、一抹の不安がありました。
 新しいカードでは、60分のメニューであれ30分のメニューであれ、メニュー内容や施術時間に関わりなく、来店1回で1ポイントにしました。施術時間や購買金額ではなく、どれだけ自店を訪れて施術を受けられたかという回数に注目したかったのです。

 同業者はどこも決まって施術時間か利用金額に応じたポイントシステムでした。一見ありがちな様で、来店回数オンリーという発想は当業種において極めて珍しいスタイルです。

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 一般の小売、サービス業でもポイントの付与は等しく利用金額(購買金額)に応じたスタイルが取られています。それがお客様にとって一番公平と考えられるからです。しかし身体代償を伴う私たちの仕事はそれに従う必要はありません。ましてや施術のメイン価値は、元来が時間や利用金額に左右されるものではないからです。

 公平、不公平はお客様に対してお店が懸念する価値観に過ぎない気もします。より積極的に、サロンの側からこういうポイントサービスを提供したいというポリシーがあるのなら、その方針に従ってよいと思います。

ポイントへの利便性

 お客様には6ポイント貯まるごとに300円を割引するようにしました。1枚のカードは18ポイントまで貯められるので、カードを満タンにすると900円の割引クーポンとして利用できます。6ポイント毎に300円を利用するか、12ポイントの時点で600円利用するか、あるいは1枚18ポイントを満タンにして900円の割引をまとめて受けるかはお客様の自由です。

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「店長、こんなにサービスしても大丈夫なのですか?」
 今度はセラピストからはそんな心配の声が上がりました。従来は30ポイントのカード満タンで500円の割引だったので格段の違いといえるでしょう。

 ポイントへの利便性はその「貯めやすさ」と共に「使いやすさ」が重要な要素になります。還元率はもちろん、それらの利便性が大幅に改善され。従来の全ての利用パターンでお客様が魅力を感じていただけるスタイルに生まれ変わりました。

【新ポイントシステム】
・カード1枚で18ポイントを貯める
・満タンになると900円の割引
 (6ポイント毎に300円の割引)
・施術1回につき1ポイントの配布

 お客様にとってより良いシステムにポイントカードが生まれ変わる。歓迎こそされ、それに反対するセラピストは誰一人いませんでした。

新たなカードの現在

 当店のポイントカードは、二つ折りの小型名刺サイズです。紙のカードとしては今回が最後です。次にはプラスチックのカードか、あるいはスマホによるカードになるでしょう。

 しかし紙カードには、紙であるがゆえの良さがあります。お客様にとって電子化されると見えにくいポイントの履歴や貯まり具合を一覧することができ、割引クーポンとして使い忘れる心配もありません。セラピストはボールペンで情報を記入する際、パッと一見するだけでそれまでの施術の経緯を把握することができます。長期間の情報をきちんとデータとして蓄えるのは苦手ですが、紙ならではの良さが活かされています。

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 このカードにさらに、新しい目的を持たせました。「お客様との信頼の証」という位置づけです。会員カードとしての性格がいっそう強まり、もう単なるポイントカードではありません。

 新カードをスタートさせたのは本年1月のことです。約半年が経ちました。幸いなことにお客様にも広く受け入れられ、旧カードからの更新を含め発行枚数はすでに1,000枚を超えています。
 当店最後の紙カードは、思いのほか長寿を全うするかも知れません。

◆ ◆ ◆

 業界全般の事柄をテーマにするLookに対して、Watchではもみほぐしサロンの具体像を取り上げています。「ポイントカード」はカテゴリが狭いのでWatchのつもりだったのですが、いざ書いてみるとLook寄りになってしまいました。いずれも著者の個人的な見解です。長文をお読みいただき、ありがとうございました。

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